EDITOR’S REPORT

【インタビュー】テクノロジーが描く食文化の未来 OPEN MEALSプロジェクトは「外食産業」の成長余地をどう捉えるか

FOODITは「外食の未来が生まれる場所を作ろう」という趣旨の元に立ち上がったカンファレンスです。昨年開催された「FOODIT TOKYO 2017」には約1,000人が来場し、外食産業の”生産性”をテーマに多くの著名人による登壇セッションが行われました。第4回目となる今年は2018年9月13日(木)東京ミッドタウンホールにて開催いたします。詳しくは「FOODIT TOKYO 2018」公式ページをご確認ください。

 

今回は2018年3月に米国で開催されたSXSW18にて“フードプリンターから寿司が出力される”という斬新なデモンストレーションを行い話題となった「SUSHI TELEPORTATION」を手掛けるOPEN MEALSプロジェクトの榊氏(株式会社電通)をインタビュー。プロジェクト誕生秘話、現在進行中の活動状況や課題と、食文化の未来にはどんな成長プランが考え得るか、そのユニークな発想に迫るインタビューをお届けします。

「SUSHI TELEPORTATION」が生まれたキッカケ

ー「SXSW18」で公開された「SSUSHI TELEPORTATION」には、世界中から様々な反響があったと思いますが、どのような背景から生まれたのでしょうか?

榊氏(以下、敬称略) 「SUSHI TELEPORTATION」は、実は三年前に僕があるコンペに出したアイディアが元になっているんです。僕がいま在籍しているのはCMやポスターなどの広告ではない新しい構想を考える部署で、年に数回、社内でアイディアコンペがあります。そこに提出したアイディアがはじめのキッカケです。

ーその時点でのアイディアはどんなものでしたか?

榊 印刷物って「CMYK」という4つの色の組み合わせで再現されますよね。それを料理に置きかえてみたらどうなるだろう、味の要素を分解してデータ化すると印刷物のように出力して再現することはできるのだろうか、とふと思いついたのがはじまりです。僕はこれを「SSSB…Salty(塩味)Sour(酸味)Sweet(甘味)Bitter(苦味)」という概念で提唱しているんですけれど、実際に自分でプリンターを買ってカートリッジに醤油とか酢とかを入れて、紙のかわりに食べられる大豆ペーパーとかも使って、そんな実験を繰り返す中で「食プロジェクト」の構想が少しずつ見えてきて。料理をデータ化してオンライン上にアップする、それをダウンロードして、食べられる素材を用いてフードプリンターから出力すれば、料理が再現できるのではないか。いわば「食のiTunes」のようなものが出来ないかと。

ーデータ化はどのように行われたのでしょうか?

榊 実在する料理を食材や原料以外のもので再現できるかという検証にあたって、最初に取り組んだのが「デジタルおでん」というプロダクトです。「味」は舌で感じる味を数値化する味覚センサー、「食感」は圧力センサーやMRIを用いると中の水分量や粗密の関係が測れるのではないか。「栄養素」は赤外線センサーで測ってみたらどうだろうとか、それぞれのデータをバラバラに採って再現する実験を続けています。デジタルおでんは手探りの部分もありましたが、試作した大根は実物にかなり近いものが再現できました。それをきっかけに興味を持ってくださった人が増えて、本格的にプロジェクトを進めることになりました。

ー「SUSHI TELEPORTATION」はプロジェクト本格化の狼煙でもあるんですね。

榊 そうですね。「OPEN MEALSプロジェクト」としてSXSW18への出展が決まった時に、プレゼンテーション方法として世界中の人に興味を持ってもらう仕掛けができないかと考えました。そこは我々の得意分野ではあるので、東京で日本の職人が握った寿司をアメリカのオースティンへ転送するというデモンストレーションをやろうという考えに至りました。

OPEN MEALSが目指していること

ーデータ化した料理を出力再現するにあたって、苦労したことやこだわりはありますか?

榊 いま取り組んでいる課題としては、完成までのスピードと、料理としての再現性ですね。「SUSHI TELEPORTATION」でいうとピクセルフードプリンターから500くらいのキューブを出力し、ひとつの寿司に成形するまで20~30分はかかる。これはピクセルフードプリンターならではの欠点でもありますが、スピード感を持ってパーツを積み上げながら接着する、というのは相当難しくて。映像ではくっついているように見えていますが、実はバラバラのパーツのままなんです(笑)たんぱく質同士での接着はどうかとか、見せる直前に食用糊でくっつけるとか…。これに関してはフードプリンターで出力できる食用素材の研究が進んでいる、プロジェクトメンバーの山形大学とも相談しながらいろいろ考え中ですね。

ー実用性への課題としては、他にはどんなものがありますか?

榊 工程や材料が多いと、実際に完成品を販売するとなった場合に単価が高くなりすぎると思うんです。それだと実用的ではない。食のデータ化ですべての人が幸せになる、みんなが使いたくなるものでないと、結局は伝わらないので。実はいま全然違うメニューや手法も試しています。来年のSXSWなのか、シアトルで開かれるSmart Kitchen Summitなのかわかりませんが、どちらかに間に合うようであればその新作も発表したいですね。

ーOPEN MEALSプロジェクトが考える、“食の再現”で実現したい未来とはどのようなものでしょうか?

榊 僕らがいま目指しているのは、データを用いて食をパーソナライズしていく「食の最適化」で、それによって新しい食文化を生み出していくことがOPEN MEALS構想の根幹部分です。例えば「とんかつ」を食べたくても、カロリーが高い、噛み切れない、宗教上の問題があるなどの理由で、食べられない人がいると思います。食べる側の欲している栄養素や条件を満たす素材を用いて「とんかつ」として出力すれば、これまで食べられなかった人でも食べられるとか、代替食材を用いて再現することで恩恵を受ける人が出てきます。いわば「とんかつの最適化」ですね。「あの名店のとんかつの味を再現する」となると難しいかもしれないですが、こういった極めて厳密に本物に寄せていく細かい技術は、日本人の得意分野でもある。病院食、アレルギー対応、宗教対応へのニーズはすでにあって、それに対する提供イメージもあるので、フードプリンターの導入は予想以上に早く進んでいくのではないかと思っています。

日本の食文化や外食産業に思うこと

ー外食産業とのコラボレートも検討されているのでしょうか?

榊 料理を出力するプリンターがあれば、世界中のチェーン店が提供してくれるメニューを楽しめる、食のプラットフォームになるというのは理想ですが、まだ今の段階では、すでにあるレシピをそのまま完全に再現するハードルが高いです。もし三ツ星レストランのシェフが、僕らが作ったフードプリンターで出力できる仕様に合わせたレシピを作ってくれたら出力できるかもしれないですが、50種のスパイスや原料を使うような料理の再現をしようと思うと、出力側は大量のものを用意しなければならず、機械がとても大きくなってしまったり、コストがかかるため現在の方法では難しくなります。再現しようとすると電子プリンターのような、細胞レベルでの出力になるのかもしれない。もし実現できたとしたら、世界中の料理を再現できることになりますね。

ー「フードプリンター」の実用化が進むと、外食産業にはどんな変化が起きそうでしょうか?

榊 自宅で簡単に食べたいものが食べられるようになってしまうと、外に食べに行かなくなってしまうのではないかと、プレゼンテーションを行う中でもよく言われるのですが、僕はそうはならないだろうと思っています。「データ化して出力する」のは新しい方法論でしかなくて、体験がデザインされているレストランや飲食店は、これからよりその価値が高まっていくと思います。家にいながら有名店の味が食べられるのはコンビニエンスではありますが、外食はエンタメ性が高い体験です。わざわざその場所に行って料理人が作った料理を食べるという再現まではデータではできないことです。将来的にVRなどを使って近しい体験ができるかもしれないですけどね。

ー食文化への影響はどんな風に捉えていますか?

榊 例えば、寿司ってエンタメ性が高い外食ですよね。カウンターで大将が目の前にいて、魚を捌いて握る、それを食べる。世界的に見ても、日本の食文化には体験価値の高いものがたくさんある。家で食べているのと同じようなレストランやお店は、淘汰されていく可能性があるかもしれないですよね。食のパーソナライズが進んでいくと、正しい栄養を取るための食事を簡易的にとるようになるでしょうし、楽しみたいと思えば体験を選ぶでしょう。そこは極端な差がついてくると思います。

ー体験価値への誘導という側面もあるのでしょうか?

榊 音楽で言うと、iTunesなどですべての音楽がオンラインデータ化されて、CDショップにわざわざ行かなくても、誰でもスマホなどから音楽が聴けるようになったことに対し、ライブやフェスで実物を体験することが価値になっていきました。誰かと一緒にわざわざ行って盛り上がる、という行動がターゲットのすそ野を広げたと捉えることもできると思います。気軽に料理がダウンロードできることで、いつかそこに本物を食べに行ってみたいと思わせることもできるのではないかと思っています。

テクノロジーと未来の食文化の関係

ー食のプラットフォーム化が進むことで、新たな食文化はあらわれそうでしょうか?

榊 僕が予測しているのは「食Tuber」って呼んでるんですけど、YouTuberのようにラップトップひとつでレシピをプログラミングして、そのデータをプリンターから出力して料理する人が出てくるんじゃないかなと思っています。食Tuberによっては、すごい美しい料理や、見たことない料理が産み出せる可能性がある。キッチンを持たない「データシェフ」みたいな存在や、「フードアート」というカルチャーが産み出される可能性もあるのではないかと。

ーデータが持つ価値や、活用メリットにも変化が起きそうですね。

榊 既存のレストランや飲食チェーン店、小さな個店のシェフが作ったレシピが、世界中の人たちにダウンロードされるようになると、どんな人がどんなレシピを取得して、どんなレビューをしているか、ビッグデータがたまっていきますよね。僕はこれを「SFNS…(ソーシャル・フード・ネットワーク・サービス)」と呼んでいますが、個人ベースや地域ベースでの生のデータが取れていくと、いろんな活用ができるんじゃないかなと思っています。国が変われば味や食材も変わって、同じメニューでも個人の好みの傾向で出力されていくとか。ここに食の未来があると感じています。

ー誰でもできるようになるからこそ、生命に直接影響がある食分野に関しては、専門知識や技術、法律などの整備が今以上に問われそうですね。

榊 そこですね。食のデータにも特許や商標権が結びついてくる時代になる。今は市場がないので具体的な議論はこれからですけれど、法的整備は話していかなくてはいけない重要なポイントです。ビジネスベースの話でいうと、僕らが考えているのはプリンターやカートリッジをいくら売るかというよりは、ダウンロードする料理データに対しての課金やサブスクリプションでのビジネスモデルです。調理師の免許であったり、衛生管理責任者であったり、飲食物を取り扱うことに対してのレギュレーションみたいなものは、まだこれから整理が必要ですね。

OPEN MEALS構想の現在地と展望

ーOPEN MEALSプロジェクトとして現在注力して取り組んでいること、今後の活動予定などを教えてください。

榊 我々が最終的に目指しているところは「食のプラットフォーム」として、これからの食文化へのヒントを提示し、新しい文化を作っていくことです。世界的にFood Techには注目が集まっていますが、日本は特にこの分野には強いと感じているので、世界に対し「食のプラットフォーム」を広げるにあたっては、あえて「食に携わる日本人」を多方面から巻き込んでいこうと。OPEN MEALSのパートナーシップにも力を入れています。

ー具体的にはどんな方々がパートナーになられているんでしょうか?

榊 原料や材料を生産している方、食品関連メーカーで研究をされている方、料理人やシェフ、食プリンターの開発に興味があるエンジニア、化学や生物の研究から代用食材やレシピ開発に取り組んでいる教授など…食文脈に直に触れているクリエイターのみなさんに集まっていただいてます。海外からの引き合いもあるんですけれど、なるべく国内でチームを固めて、世界に発表していけたらいいなと思っています。

ー日本国内でもデモンストレーションが実際に見られる機会はありますか?

榊 2020年の今ぐらいまでの時期に、店舗をひとつ作りたいなと。もしかしたら期間限定なのか、特定の場所を借りて、ということではないかもしれないですが。もし、東京オリンピックの開催タイミングに合わせて登場できたら、面白いことになりそうですよね。世界中の人がワクワクするようなものが、きっとお見せできると思うので。楽しみにしていてください!

 

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OPEN MEALSは現在、プロジェクトへの参画希望や質問などを幅広く受付中。プロジェクトの詳細および募集要項は公式HP(open-meals.com)にてご確認ください。詳しいお問い合わせは team.openmeals@gmail.com まで。

 

FOODIT TOKYO 2018の詳細はこちら

FOODIT TOKYO 2018
@ Tokyo Midtown Hall

開催日時:2018年9月13日(木) 11:50 - 19:00
場所:東京ミッドタウンホール

チケットはこちらから

FOODIT TOKYO 2018
@ Tokyo Midtown Hall

開催日時:2018年9月13日(木) 11:50 - 19:00
場所:東京ミッドタウンホール

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