EDITOR’S REPORT

【対談】農林水産省が描く「外食産業」の未来と課題 新藤 光明(農林水産省 食料産業局 外食産業室長)×中村 仁(FOODIT実行委員長)

FOODITは「外食の未来が生まれる場所を作ろう」という趣旨の元に立ち上がったカンファレンス。昨年開催された「FOODIT TOKYO 2017」には約1,000人が来場し、外食産業の”生産性”をテーマに多くの著名人による登壇セッションが行われました。第4回目となる今年は2018年9月13日(木)東京ミッドタウンホールにて開催いたします。詳しくは「FOODIT TOKYO 2018」公式ページをご覧ください。

今回は「FOODIT TOKYO 2018」を後援いただく農林水産省より食料産業局 外食産業室長 新藤 光明氏をお招きし、FOODIT TOKYO実行委員長 中村 仁とのスペシャル対談をお届けします。外食産業の未来に対して、それぞれの使命感を持つおふたりのトーク。どのような展開となるのか、ご注目ください。

「FOODIT TOKYO 2018」の後援を決めた理由

中村 FOODITは今年で4回目になるのですが、新藤さんはどのような経緯で我々のことを知っていただけたのでしょうか?

新藤氏(以下、敬称略) 私が現職に着任したのが昨年9月のことで、外食産業に関連するカンファレンスやイベント情報を調べているときに「FOODIT TOKYO 2017」を知り、実際に参加させていただきました。登壇されていた堀江貴文さんの『スナック論』も印象的で、色々と参考になるお話を拝聴することができました。これは農林水産省としても、お付き合いを深めていきたいと思ったのがキッカケです。

中村 ありがとうございます。実際にお越し頂いて後援を決めていただけたというのは、FOODITとしても嬉しい限りです。昨年は確かに、インパクトの強いセッションが多かったと思います。

新藤 大変いい刺激を頂きました。農林水産省は外食産業に対して規制官庁として活動しているわけではないんです。業界の御用聞きとして課題を吸い上げ、国としてどんな支援ができるかを考える。課題解決のためのソリューションを通じて、外食産業全体の発展を支援することがミッションになりますので、さまざまな団体ともお付き合いさせていただいています。外食産業がこれから取り組む課題はたくさんあります。いくつかキーワードを並べるだけでも、軽減税率、受動喫煙、同一労働同一賃金、残業時間の上限規制、社会保険適用の拡大、HACCP対応、バリアフリー、プラスチック問題など。どれも農林水産省の主管事項ではありませんが、業界の声を聞いて、しかるべきところに繋いでいきます。

農林水産省がいま、最も注力して取り組んでいる課題

中村 農林水産省さんの中でもさまざまな取り組みが行われているかと思いますが、いま最も注力されている課題とはどのようなものでしょうか?

新藤 大きなところでは、やはり「生産性向上」ですね。外食産業は他の業種と比べても人手不足がきわめて深刻であり、今後は人を確保できる企業しか生き残れないとよく言われます。最近は外国人材の新たな在留資格についても取り沙汰されており、私の部署でその検討もしているところですが、まずは日本人の労働力を最大限活用していくことが重要です。人を確保するためには、まずは外食産業にたくさんの人に入ってきてもらうために、自己実現ができる、夢の語れる職場や職業であることが重要ですし、入ってきた人に長く働いてもらうためには、処遇の改善を含めた働き方改革も必要です。そして、働く人の賃金を上げていくためには従業員1人あたりの付加価値額、即ち労働生産性の向上がとても重要になってきます。ですので、農林水産省としては「生産性向上」に力を入れて情報発信をしています。外食産業に関する情報は民間でもたくさんありますので、農林水産省だからできるニッチな情報を提供したいと思っています。


http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gaisyoku/attach/pdf/index-3.pdf

例えばこの生産性向上のための情報をまとめた冊子は、実際に課題を抱える事業者さんに手を挙げていただき、その事業者さんのところに外部のコンサルティングに入っていただきました。普段の業務の中では気づかないようなことでも、外部の視点から見て少し改善するだけで生産性があがりました。その事例を集めて一冊にまとめています。この冊子の特徴は、IT化以外の情報をまとめているところです。もちろん生産性向上のためにIT化が必要なことは重々わかっておりますが、農林水産省の得意分野というわけではないですし、民間でもIT化の情報はたくさんありますので、あえてIT化以外の部分に限定してまとめているんです。FOODITとは「逆張り」をしているわけです(笑)。

中村 (冊子を見て)とても充実した内容ですね。日々の業務の中では気づかないことも色々とあると思いますので、何か課題を感じているお店さんにはぜひ参考にしていただきたいですね。この冊子はどうしたら頂けるのでしょうか?

新藤 1万部を中小企業や個人店中心に配布したのですが、農林水産省のホームページへ掲載もしています。この冊子は農林水産省で作っているものですが、外食産業の生産性向上については農林水産省以外でも積極的に取り組んでいます。「飲食店」という切り口での支援策は多くありませんが、「中小企業」という切り口ならいろんな支援メニューがあります。
例えばIT関連の課題は経済産業省、労働環境については厚生労働省など、各省庁でさまざまなサポートを行っています。ただ、窓口が分かれているとメニューを探しづらいので、今回のFOODITへの出展もそうですが、農林水産省、経済産業省、厚生労働省の3省合同で外食産業関連イベントに出展して補助金・助成金のメニュー紹介や無料相談会を開催したり、飲食店向けに省庁横断的な支援メニューのパンフレットを作成するなど、事業者の方が求める支援措置を探しやすくなるよう、今年は省庁の枠を超えて積極的に活動を行っていく予定です。

中村 たしかに、実際に私もお店をやっていた時、どういったサポートプログラムがあるのか、適切なものを探すことができずに困っていました。

新藤 3省庁合同で相談窓口を出すことで、相談者の方に合った最適なサポートを提案していきたいと思っています。FOODITにお越しのみなさまには、ぜひ当日の会場で気軽に相談していただけたらと思っています。

省庁だからこそ提供できること

中村 テクノロジーやインバウンドに対しての取り組みについてはいかがですか?

新藤 外食のインバウンド需要は約9千億円、産業全体の市場規模25.7兆円に占める割合は3.5%と既に大きな存在であり、今後も伸びが期待できる分野です。
特に、インバウンド関連で推進したいのは「キャッシュレス化」ですね。客単価を上げるだけでなく、現金管理コストの削減という意味でも飲食店にメリットのあるものだと思いますが、カード決済に対応している飲食店の割合は、東京でも全体の半分に届かず、地方ではもっと低い状況です。決済手数料については今まで「3.24%」という数字が一種の岩盤のようになっていましたが、最近になってQRコード決済の手数料競争が激化していますね。これが外食産業のキャッシュレス化にブレークスルーをもたらすものなのか、注目しています。
政府としても経済産業省を中心にキャッシュレス推進協議会を立ち上げて、多くの利害関係者をまきこんでの議論を開始したところです。ただ、初期メンバーを見ると外食業界からはロイヤルホールディングスの菊地会長が理事として就任されているのみで、孤軍奮闘の状況です。あと何社か加入していただき、業界の発言力を確保した方が良いかもしれませんね。随時、メンバー募集中です。

「キャッシュレス推進協議会」
http://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180703002/20180703002.html

ちなみに、農林水産省では飲食業のインバウンド対応のガイドブック3冊を作成しています。業界有識者の方にインプットしていただき、ボリュームを少なくして見やすくまとめていますので、是非ご活用いただきたいと思います。


http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gaisyoku/index.html

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、飲食店のバリアフリー対応も重要課題と捉えています。今年の3月、農林水産省から関係団体(日本フードサービス協会、全国飲食業生活衛生同業組合連合会、日本補助犬協会)にお願いして、飲食店の「心のバリアフリー」を進めるための接遇マニュアルを作成していただきました。こちらの普及も各団体の御協力を得て進めていきたいと思っています。

「外食産業における障がい者接遇マニュアル」
http://www.jfnet.or.jp/files/jf_Barrierfree.pdf

また、政府としては、外食には成長産業であってほしいと思いますので、インバウンドもアウトバウンドも重視しています。外食産業の中でも多くを占める中小企業さんに対して、今後を見据えた新機軸としての海外進出を支援することも増えていますね。

中村 なるほど。大企業のように潤沢な資金やネットワークがなくても、海外進出や新規事業へ積極的に打って出られるサポートがあるというのは心強いことだと思います。ちなみに新藤さんから見て、いま海外展開するならこのエリアが面白いなどありますか?

新藤 ロシアですね。昨年から注力しているのは。

中村 ロシア!(驚)なぜまた、ロシアなんですか?

新藤 北米や東・東南アジア、また数は少ないですが西欧あたりは、日系企業の進出も早くから進んでいますので海外進出先としてのイメージはあると思いますし、民間ベースでの情報共有の取組も進んでいます。ですが、色々と調査をしていくとロシアは外食率がとても低く、逆に今後の伸びが期待できる。日本食レストランはあっても、日系企業が展開しているわけではない店舗がほとんどです。そういう意味では将来的に有望なマーケットとして考えることができるのです。

中村 確かにロシアって、どこからどう繋がっていけばいいのか想像がつかないですね。そういう地域は省庁のサポートを受けた方が安心して開拓も進めやすそうですね。外食業界の中からではパッと出てこないような視点ですし、とても貴重な情報だと思います。

新藤 昨年はウラジオストクで日本のラーメン屋を4軒募集して、期間限定ストアを展開してみたのですが、そのうち2軒はその場でビジネスパートナーを見つけて実際にロシア出店を実現しました。
また、この期間限定ストア出店での経験を活かし、ロシアで出店する際に必要な契約や手続き、食材の調達や運営についてなどもマニュアルにまとめ、農林水産省のホームページで公開しています。

「飲食店のロシア出店に向けて ~法規制と手続き~」
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gaisyoku/29_russia.html

中村 (マニュアルを見て)なるほど…結構リアルなことも書いてあって面白いですね。

新藤 今年は、モスクワ等のヨーロッパ側の大都市での出店を目指して、日露の外食企業の合弁・フランチャイズ契約等の商談・マッチングを支援する事業を行っています。事業を仕組むに当たって私もモスクワ・サンクトペテルブルクの外食企業を10社程度訪問して経営者と会ってきましたが、皆さん、日本企業と連携して業態を多角化することには強い関心を持っていましたよ。

中村 日系企業の海外展開に積極的な対策を打っていかれるんですね。

新藤 現在、海外に存在する日本食レストランは約12万店ですが、日経企業が海外で運営する飲食店は8千店程度です。まだまだ増やせるのではないかと思っています。
国内市場については長期的に見ると、インバウンドを踏まえた上でも人口減少社会であることは避けられないと思います。しかし、今後の市場規模がどうなるかは人口だけでなく、外食率や客単価の動きにもよります。例えば、今後増加するであろうシニア層の日常の食事ニーズをどこまで外食産業が取り込んでいけるかどうかで、外食率の水準も違ってくるでしょうね。現在の日本の外食率は金額ベースで34%ですが、ピーク時には40%でした。米国では「food at home」が圧倒的に多かったのが、「food away from home」の比率が年々上昇し、今は5割程度で拮抗しています。

日本の外食産業は他国に比べて成熟度が高い

新藤 ちなみにトレタさんでは海外進出はどうお考えですか?

中村 現状、シンガポール、台湾に展開していまして、約200店舗ほどにご利用いただいています。結果的には日系企業さんに利用していただいてるケースが多いです。というのも、まだ日本ほど「予約」を重要視していない国も多くあります。日本くらい外食産業が成熟すると予約というのは重要になってきますので、外食産業の成熟度によりニーズが高まっていくものだと捉えています。

新藤 そうですね。欧米でもやっぱり予約の管理は紙で行っているのでしょうか?

中村 アメリカにはOpenTableなどがあるので、ある程度オンラインでの予約管理は行われていますが、それでもまだ紙での管理は根強くあります。ヨーロッパでも紙が多いですね。いずれにせよ、データを用いて顧客管理をしようという意識はあまり高まっていないのかなという感じはしています。そういった意味では、業態にもよりますが日本は顧客に対する考え方は進んでいるのではないかと思っています。

新藤 なるほど。ところで私は外食産業が多様なビジネスチャンスを取りこぼしなく捉えていくためには業界の多様性が重要だと思っていますが、今回のFOODITは「業態から顧客への視点の変化」と掲げていらっしゃいます。これは、業態開発の余地がゼロになる、ということではないんでしょうけれど、顧客の多様化に対してデータを駆使していくということでしょうか?

中村 これについては外食産業の歴史からお話しさせてください。1970年~80年代中頃、POSというものが登場し、大箱やチェーン展開などが可能になったことで一気に外食市場が拡大しました。その後、現在も含め30年ほどは、店舗システムやオペレーションにおいて大きなイノベーションは起きず、業態開発が進みました。なぜ業態開発が進んだのかというと、POSで取得した情報を使い商品開発が進む時代になったのです。商品で勝とうとすると差別化をしていかなければなりません。差別化をどんどん進めると業態が細分化していって、ターゲットが狭くなりマーケットは小さくなります。これ以上小さくできなくなってさぁどうすると困っているのが現状です。そして、この商品・業態開発が進んだ時代に活躍するのは、商品の新しい価値を生み出す、ある種のクリエイター的な人だと思います。一方で飲食店の経営者を見てみると、実際はクリエイターのような人は少ないんですよね。

新藤 なるほど。確かに、既にいろんな業態が存在していて、それをどう活用するかが重要になっているのかもしれませんね。

中村 今の外食業界は斬新でインパクトのあることをしていかなければ成功できないと思い込んでいるところがあると思います。しかし、そうでなくても繁盛する方法は他にもあって、実際にうまくいっている人もいます。FOODITでは、商品の時代が行き詰まりはじめ、次は顧客の時代になると考えています。どんな人に来てもらいたいか、その人にどういう体験をしてもらいたいか、そういった顧客の目線で考えて店づくりをする方向に変わっていかなければいけないのではというのが、今回のFOODITで「商品の時代から顧客の時代へ」と掲げている想いでもあります。

新藤 日本の外食産業や食文化の良いところをより引き出すという発想ですね。

中村 FOODITを通じて、色んな視点をもつことで、まだまだ成長できるという「攻め」の姿勢に繋がるといいなと。「いまロシアがアツい」なんてお話はまさにそれで。業界の中からは出て来づらい発想や情報から拡がることってたくさんあるはずなので。

新藤 国際的な競争力も含め、グローバルな視点からこれからの日本の外食産業にどのような変化が起きていくのか、どのような食文化になっていくのか、現場の熱量を感じながら、変化の芽を見出してサポートしていくのが我々の役割なのかなと感じています。そういう意味では、飲食とITで生産性を高めるというFOODITさんは、外食業界のイベントで今一番ホットな場所だと思います。私自身も当日どんなことが得られるか楽しみにしていますし、ブースでたくさんの方に支援を届けられればと思います。

***

農林水産省・経済産業省・厚生労働省による外食産業支援の取り組みについて、FOODIT TOKYO2018のブースにて相談窓口を設置していただく各省庁のみなさんに詳しいお話もお伺いしてきましたので、更新をお楽しみに。

FOODIT TOKYO 2018の詳細はこちら

FOODIT TOKYO 2018
@ Tokyo Midtown Hall

開催日時:2018年9月13日(木) 11:50 - 19:00
場所:東京ミッドタウンホール

チケットはこちらから

FOODIT TOKYO 2018
@ Tokyo Midtown Hall

開催日時:2018年9月13日(木) 11:50 - 19:00
場所:東京ミッドタウンホール

チケットはこちらから